クルーズ業界は新型コロナの影響を大きく受けました。
アフターコロナのあとどう変わっていくのかの文献をご紹介します
クルーズ業界をもう一度盛り上げていきたいですね!
COVID-19(俗にいう新型コロナウイルス感染症)の集団感染がダイヤモンド・プリンセスなど複数の大型客船で確認されたのは2月の初めのことだった。あれから間もなく2カ月が過ぎようとしていている。
ダイヤモンド・プリンセスでは、3月下旬時点で全ての船員と船客の下船が終わり、船内の清掃と消毒作業を開始した。ダイヤモンド・プリンセスは当初、4月末から日本発着巡航を再開する予定だったが、所有する全客船において3月12日から2カ月に及ぶ運航中止を決定した。
新型コロナ罹患者と流行地域の拡大は、全ての経済活動に大きな影響を及ぼしている。クルーズ業界においては、主要クルーズ船社が1カ月から2カ月にわたって運航を中止し、2020年にアジア海域で予定していた巡航計画を取りやめている。そして、ダイヤモンド・プリンセスにまつわる数多くの報道によって、多くの日本人がクルーズに対して悪いイメージを持ってしまった。
四面楚歌のクルーズ業界は、この苦境を乗り切るために何をすればいいのか。何かできることはあるのか。
50年にわたって日本のクルーズ市場をけん引し、幾多のクルーズプランを実施してきた“開拓者”の一人である木島榮子氏にこの騒動に対する率直な思いを聞いた。同氏は現在、クルーズプランの提案と販売を手掛ける「クルーズバケーション」代表取締役社長として活動しているが、ダイヤモンド・プリンセスによる日本発着クルーズが始まった当時のカーニバル・ジャパン代表取締役社長を務めていた(20年3月11日取材)。
── クルーズ業界にとって大変厳しい情勢ですが、今の率直なお気持ちは。
木島 日本のクルーズ市場にとって非常に大きな打撃になりました。数多くの報道で取り上げられて、船の中がとても狭い空間で自由が利かないという印象を植え付けてしまいました。それが非常に残念です。また、船客が検査で陰性となって下船したのに、周囲の方に迷惑を掛けるのではと心配して家から出られないという話を聞くと本当にお気の毒だと思います。とにかく、クルーズに対するマイナスのイメージが強くなってしまいました。
ダイヤモンド・プリンセスが外国船だったことも(イメージが悪くなった1つの理由として)あると思います。ただ、このダメージは日本の客船にも及んでいます。
一度船旅を経験したリピーターの皆さんは、広い船の中を自由に行動できて、乗員がきめ細かく世話をしてくれて、いろいろな観光地を楽に移動できる、という船旅の良さを理解しています。しかし、初めての人や内側の窓のない船室を使われた人は、つらい思いをされてしまったと思います。そして、報道では全員がそうだったように伝わっています。ダイヤモンド・プリンセスは、内側の船室が他の客船と比べて少なく船内は開放的ですが、やはり内側の船室に滞在した船客の対応が一番大変だったと思います。船が空いていれば船室を変えることもできたのですが、あのクルーズは満船だったので、それもできなかったそうです。
同じ時期に他の外国客船でも感染者が出ていますが、全て海外のことで日本ではほとんど報道されていません。それだけにダイヤモンド・プリンセスに多くの関心が向かうことになりました。また、同じプリンセス・クルーズの「グランド・プリンセス」が米国サンフランシスコ沖で感染発生が判明したのもプリンセス・クルーズにとって痛手でした。
── 過去にもクルーズ業界に大きなダメージを与えた事案がありましたが。
木島 11年にニューヨークで起きた9・11同時多発テロでは、クルーズに限らず航空業界など旅行業界全体に大きな影響がありました。鳥インフルエンザ、SRAS、MERSといった新型インフルエンザの流行でも海外旅行業界にダメージがありました。当時、日本発着のクルーズはほとんどなく、海外にある発着港まで飛行機で往復するフライ&クルーズが主流でしたが、今回ほどの影響は受けていません。
ただ、SRASもMERSも主な流行は海外で起きています。そのため、日本では今回ほど身近な問題とならず、どの事案でも3カ月程度で市場は回復しています。海外のクルーズ船社は市場回復のための大規模なプロモーションは実施しておらず、旅行会社に安全対策を説明して顧客への周知を依頼する程度でした。
確かに船は閉じられた空間ですから、消化器系感染症の「ノロウイルス」の集団感染が一時期クルーズ業界で大きな問題になりましたが、今では危機感を伴って話題になることが少なくなりました。その多くは海外で発生するため日本で報じられる機会もほとんどありません。また、感染した場合でも死亡することはなく、感染者の隔離も船室内で48時間と短いため影響は少ないといえます。クルーズを利用する人たちも、そのリスクを許容範囲と認識しています。それゆえに、いまノロウイルスの集団感染の可能性を問題にすることはほとんどありません。
しかし、今回のダイヤモンド・プリンセスの案件は、日本で発生し入港した横浜から連日大きく報道されました。そのため、これまでの同時多発テロや新型インフルエンザの流行とは比べものならないほど大きな衝撃を日本人に与えてしまいました。今回の危機は今までの逆風とは全く違うもの、という認識です。
── このダメージから日本のクルーズ業界が復活するために何ができるでしょうか?
木島 とにかく、まずはCOVID-19が沈静化するのを待つしかありません。そして、治療薬やワクチンなどの実効力のある感染予防のガイドラインが用意できて、COVID-19に対して安心できる状況が整う必要があります。
また、今回の体験を生かしてより安全な対策が用意できた段階で、そのことを多くの人に知ってもらうことが必要になります。ただ、それまでには長い時間がかかるかもしれません。
── クルーズの安全を訴求する活動は業界団体が手掛けるのでしょうか。
木島 業界団体として「日本外航客船協会」がありますが、正会員は日本船社が主体で海外船社は賛助会員としての参加にとどまっています。そういう意味で、日本船社と海外船社が対等な関係でつながる横断的な業界団体が存在しないというのが現状です。
CLIA(Cruise Lines International Association)のような客船会社、旅行会社等関連機関が会員となってクルージングの推進と拡大を目標とする団体が今後は日本でも必要になるのではと考えています(取材者注:もう1つ「日本旅客船協会」があるが、こちらは内航客船が主体となっている)。
クルーズを扱う官庁の部署としては、国土交通省の海事局と港湾局、そして観光庁があります。ただ、港湾局は港の整備が主な業務で海事局は統計と法整備が主な業務です。JATA(日本旅行業協会)にもクルーズ部会がありますが、それほど積極的な活動はみられません。観光立国の提案のなかで、クルーズ客人数を20年に250万人と目標を掲げた観光庁がクルーズ振興を手掛けていますので連携した施策をお願いしたいです。
このように横断的な組織がないため、いまクルーズを中心に販売している旅行会社の有志の方々と何をしたらいいかを考える場を設けようとしています。ダイヤモンド・プリンセスも、状況が整ってクルーズを再開できる時期が来たら、まずはメディア関係者に乗船してもらい、安全対策が万全であること、そして、やはり船旅は楽しいことを日本の多くの人々に向けて発信することが必要です。
── ダイヤモンド・プリンセスでは、提供する食事やクルーの対応などを評価する船客も数多くいました。木島さんはダイヤモンド・プリンセスの日本発着クルーズが始まったとき、カーニバル・ジャパンのトップでしたが、日本向けのカスタマイズはかなり注意されていたのでしょうか。
木島 日本人に向けたサービスというのは他の国のサービスとは比べられないほど繊細で奥行きの深いものを要求されます。ダイヤモンド・プリンセスを日本に呼んだときに、彼らは日本のクルーズ市場に対して、どのようにすれば日本人は喜んでくれるのかを徹底的に研究していました。
日本の客船で提供しているサービスを研究し、日本語でのあいさつの仕方や説明の仕方、船客に配る文章の日本語などは全部私が中心となって日本側で細かくチェックしました。和食のメニュー、盛り付け、箸の置き方や和食に使う食器の柄なども1つ1つ確認しました。
そういう意味では、外国船籍の客船ではあっても中身は実質的に日本客船を作り上げるようなものです。そして、私たちのそのような考えを当時のカーニバル米国本社も信頼して、日本に全て任せてくれました。船客対応の乗員はフィリピン人が多いですが、日本の客船で働いていた人をかなり採用しました。
加えて、外国客船で船内施設として大浴場を備えているのはダイヤモンド・プリンセスだけです。このようにこの船はプリンセス・クルーズ所属の客船ですが、日本の造船所で建造されており、日本人にとってもプリンセス・クルーズにとっても特別な存在です。
ダイヤモンド・プリンセスは、ここまで7年間かけて日本発着クルーズを育ててきただけでなく、日本におけるクルーズの認知度をここまで高めてきたわけですから、この状況に負けることなく、これからもクルーズを継続して運航していくことは一番重要だと思うのです。日本のクルーズ市場にそった、日本の商習慣を考慮して進めて頂ければと思います。